令和7年10月19日(日)開催【みんなでつくるイベント「刀剣取り扱いを知る、学ぶ」】
2025年12月2日 13時23分会津在住のライター・渡部あきこさんに、みんなでつくるイベント「刀剣取り扱いを知る、学ぶ」を取材いただきました。
10月19日(日)開催 みんなでつくるイベント「刀剣取り扱いを知る、学ぶ」
福島県立博物館では、ミュージアムパートナーのみなさんや、連携団体のみなさんとともに、地域に根ざした芸能や季節の行事、会津の各地で育まれた文化をテーマにした体験プログラム、こどもたちが地域の歴史や文化に遊びながら触れられるイベントなど、「みんなでつくるイベント」と題したさまざまなイベントを実施しています。
みなさんと協力しながら、博物館ならではのイベントやプログラムをつくっている様子や、参加者のみなさんの感想などをご紹介します。
10月19日(日)に開催されたのは、「刀剣取り扱いを知る、学ぶ」。
刀匠の藤安将平さん、鞘師の塚本剛之さん、研師の塚本浩之さんをお招きし、刀剣の扱い方やお手入れの方法、そして刀剣と向き合う心構えなどを教えていただきました。
まずは、刀匠の藤安さんから、刀剣鑑賞の手引きや注意点についてのお話がありました。
①刀を傷つけない
②人を傷つけない
③怪我をしない
④指輪、イヤリング、ネックレス、腕時計などの装飾品は外す
上記4点は、刀を扱う上で大切な約束事。
「海外では刀剣は武器ですが、日本人にとって刀剣は精神そのもの。それぞれの時代の人が守り伝えてきたからこそ、今ここにあります。次の世代に正しく伝えるためにも、今日の体験を通して刀の美しさに触れてください」
長年刀に向き合ってきた藤安さんの言葉に、参加者の皆さんも“真剣”な表情で聞き入ります。
続いて、藤安さんが刀剣の手入れを実演。
始める前に、道具や刀を前に一礼するのが作法。こうして刀を作った刀匠、手入れをし守り伝えてきた人への感謝と敬意を表すのだとか。
刀を鞘から抜き、柄を外し、慎重に刀身を取り出します。次に刀身を保護する油を拭き取り、汚れを取る打ち粉ってぬぐい、きれいになったところで刀身に光を当て刃文を見たり、傷やカビの有無を確認します。
「こちらが探さなくても、全部刀が教えてくれますから」と藤安さん。
表と裏を返しながら丹念にチェックしていく姿は、刀の声に耳を傾けているようにも見えます。
手入れが終わったら、刀を元通りにおさめて、再び一礼。
手順ばかりでなく、藤安さんの所作の美しさにも思わず見入ってしまいました。
続いては、参加者が実際に刀剣の手入れに挑戦です。
用意された刀のなかから1振を選び、体験ブースへ。ここからは鞘師と研師の塚本さんたちにも加わっていただき、マンツーマンでじっくり行います。
緊張した面持ちで刀を手にする参加者に、優しく声がけしながら作業を見守る講師のお3方。
「刀身のかたちで作られた時代がわかるんですよ」
「研師の腕前が刀の良し悪しを左右するんです」
「漆塗り、組紐など今に伝わる伝統工芸も、刀の装飾から発展したんです」
刀の歴史や刃文の特徴、鑑賞する際のポイント、名刀と呼ばれる刀の裏話など、手入れの方法以外にも刀にまつわるあれこれを教えてもらえるのは、刀剣ファンにとってはたまらない時間だったようです。皆さん、わからないことや気になることを積極的に質問し、知識を深めていました。
体験のあとは、博物館に収蔵されている刀や藤安さん、塚本さんがご持参された刀の鑑賞会。
歴史的に貴重な刀も実際に抜いて間近で見られるとあって、皆さん興味津々で見守ります。
注目を集めたのはやはり和泉守兼定の刀。兼定は新撰組の土方歳三が愛用した刀の作者として知られ、刀剣をモチーフにしたゲームでは土方愛用刀がキャラクター化され人気を博しています。
憧れの刀匠の刀を実際に目にし、刃文や切先の形、刀身の反りを、プロの解説付きで観察するなんとも贅沢な時間。ここでも参加者から次々に質問が飛び、体験会の時間いっぱいまで大いに盛り上がりました。
体験を終えた参加者に話を聞きました。
「初めて刀に触りましたが、定期的に手入れしないとすぐ錆びてしまうと知って、とても繊細なものなんだなと感じました。これまで手入れをしてきた方がいたからこそ、こうして今見られることに感謝の気持ちでいっぱい。そして今日自分もその一員になれたことがうれしいです」
「このイベントのために新潟から来ました。現役の刀匠や研師の方に話を聞けたり、手入れの方法を教えていただき、とても勉強になりましたし楽しかったです。刀の鑑賞のポイントも知れたので、今後、刀を見る時の参考にします」
また、研師の塚本浩之さんは「普段、一般の方に扱い方を教える機会はないので手探りでしたが、楽しんでいただけたようで何よりです。最近は刀を持て余して引き取ってほしいという依頼も増えていて少し残念に思うこともありましたが、一方でこんなふうに刀に興味を持ってくれる人がいることは励みになります」と語ってくれました。
実はこの日、イベントに参加した方のほとんどが女性。とはいえその関心の高さには、講師の3人も驚いたほどで、最後に挨拶に立った藤安さんは「女性はきっと本能的に刀剣の美しさを感じられるのでしょう」と語り、「刀剣の専門家が減少して、女性の力が重要。どうかこの美しさ、素晴らしさを伝えてください」と涙を滲ませていました。
刀に限らず、すべての伝統文化は「継承」という、大きな課題を抱えています。新しく生み出すことも大切ですが、次世代に託すためには藤安さんや塚本さんたちのような担い手の活動が欠かせません。体験の中で、繰り返し「僕らは今のこの状態を100年、1000年先まで保つためにいるんです」と語った塚本さん。自らの仕事に大きな責任と覚悟を持っている人らしい、力強い言葉にハッとさせられました。一方で広義で考えれば、博物館等でその刀を鑑賞する私たちにも、伝えていくためにできることがあるのかもしれません。刀という歴史を体現するモノに触れ、かえって未来への思いを新たにした、そんなイベントでした。