NEW 県外事例調査(富山県氷見市)

県外事例調査として、富山県氷見市の氷見市立博物館にお邪魔いたしました。


今回の目的は、氷見市立博物館が長年に渡って取り組んでいらっしゃる「地域回想法」。
氷見市教育委員会に所属しながら氷見市立博物館における「地域回想法」を育て上げてきた小谷超さんにお話を伺いました。


そもそも、「回想法」とは、写真や音楽、昔使っていた道具を見たり触ったりしながら、昔の経験や思い出を語り合うといった心理療法の一種で、認知症の方へのアプローチとして注目されています。ポイントは「過去を振り返り、楽しむこと」を活用すること。
そして「地域回想法」とは簡単にいえば「地域で行う回想法」。
回想法では、上に挙げたようなモノ・コトを用いて回想を行います。当然それらは参加者誰もが知っているものであることが望ましい。参加者が同じ地域の方々なら、そこで日常的に使われてきた道具、育まれてきた文化が共通項になります。
地域(その範囲の広狭はあれ)の歴史や文化を見つめてきたミュージアムには、そんな「過去を思い出す」ために活用できる様々な資料が集められているわけですから、回想法を利用した事業と相性がいい。ということで、近年こうした取り組みを始めるミュージアムも増加しています。


とはいえ、継続的な事業へと発展・維持されている例は少ないのが現状です。
そもそもこうした高齢者を対象にした事業に理解が示されないこと、ミュージアムも介護福祉施設も慢性的な人員不足から負担が大きくなり過ぎてしまうこと…。
氷見市立博物館では平成23年度から本格的に「地域回想法」を実施し始めましたが、小谷さんも、最初は予算もない中で手探りからのスタートだったとおっしゃいます。
その中で、高齢者施設の方の入館料を無料にしたり、介護職の方に向けた研修会を行ったり、地域の高齢者の集いに出かけて行ったりと、様々な働きかけを行ったそうです。博物館の認知度が低いことに悩み、国の助成金が得てバスの送迎付きで博物館に足を運んでもらうこともしたそうです。その後、事業が停滞した時期もあったそうですが、平成29年には氷見市地域回想法活動ネットワーク連絡会「ほっこり回想クラブひみ」を結成。介護職員や看護師、地域のボランティアの方々を中心に、市民主体での主体的な活動が継続して行われているのです。


氷見市立博物館で地域回想法が継続されている理由はどこにあるのでしょうか。
第一には小谷さんの存在があるでしょう。「人とお話することが楽しくて、好きなだけなんです」とはにかんだような笑顔とは対照的なパワフルさ。回想法や心理療法の専門家ではなかったにもかかわらず、模索しながらこの事業をけん引してきたバイタリティには脱帽です。
一方で、様々な立場の人を上手く巻き込んできたのも成功の秘訣なのでしょう。介護施設、市の福祉・介護予防部局との連携、元あるいは現役の介護・医療職の方を含めた市民活動。多くの歯車がかみ合って、氷見市の地域回想法が回っているように感じました。


小谷さんは地域回想法を通じて、高齢者の方々と小学生の交流事業を行ったときのこと。昔の話を色々と聞かせていただいた後、最後に「80年生きてきたおばあちゃんの手をさわってみましょう」と呼びかけ、小学生たちはその手をさわり握らせていただいたそうです。
老いるということは何かを失うだけでなく、経験という豊かな財産を蓄積させていくことなのだと、そしてそれは何ものにも代えがたい価値のあることなのだと、私たちは改めて認識しなければいけないのでしょう。